計画の背景

放射線帯と宇宙嵐

図1: ジオスペースの模式図

高エネルギー粒子 (イオンと電子) は、地球磁場に捕捉され、放射線帯を形成します。MeV帯のエネルギーを持った放射線帯電子は、ジオスペースで最高のエネルギーを持った粒子です (図1)。最近の衛星 (CREES、Akebono、THEMIS等) ・地上観測やモデリングにより、内部磁気圏の詳細な構造と変化が明らかになってきました。下で示すように、エネルギー階層間結合、プラズマ圏・プラズマシート・リングカレント・放射線帯の領域間結合、および磁気圏電離圏結合は、放射線帯と内部磁気圏を理解する上で重要な概念になりました [Ebihara and Miyoshi, 2011]。

図2に示すように、宇宙嵐では、放射線帯外帯の電子は主相中に顕著に減少し、回復相中に元のレベルに戻るかしばしばそれ以上に増加します [たとえば、Baker et al., 1986; Nagai, 1988; Reeves et al., 1998, 2003; Miyoshi and Kataoka, 2005]。大磁気嵐中は、放射線帯は大きく変形し、フラックスがスロット領域と放射線帯内帯で大きく増加します [Baker et al., 2004]。

図2: Akebono衛星によって観測された2500 keV以上の電子フラックス

外部供給と内部加速による相対論的電子の生成

相対論的電子の生成について、これまで2つの物理機構が提唱されています (たとえば、Friedel et al. [2002]、Shprits et al. [2008a, 2008b]、Hudson et al. [2008]、Ebihara and Miyoshi [2011]によるレビューを参照)。一つは、準断熱加速による外部供給 [Schulz and Lanzerotti, 1974] です。この過程では、電子がプラズマシートから内部磁気圏に輸送される際、第1、第2断熱不変量を保存しながら電子のエネルギーが増加します。この過程は確率的な動経方向の拡散過程としてモデル化されていて、エネルギー電子の基本的な輸送形態です。周期が数分のULF帯のPc5脈動は、電子とのドリフト共鳴による動経方向の輸送の主な駆動源だと考えられています [たとえば、Rostoker et al., 1998; Hudson et al., 2001; Elkington et al., 1999; Elkington, 2006; Mathie and Mann, 2000]。

もう一つの物理機構は、内部加速と呼ばれています。ホイッスラーモード波動との共鳴によって放射線帯内部で相対論的電子の加速が引き起こされることが示唆されています [たとえば、Summers et al., 1998; Miyoshi et al., 2003; Horne et al., 2005]。ホイッスラーモード波動の励起のための自由エネルギーは、数10 keVの電子の温度異方性です [たとえば、Kennel and Petscheck, 1966; Jordanova et al., 2010]。続いて起こる非線形過程を含む波動粒子相互作用 [たとえば、Katoh and Omura, 2007; Omura et al., 2008] により、放射線帯外帯の相対論的電子を加速するコーラス波動を生成します [たとえば、Summers and Ma, 2000; Summers et al., 2007]。

波動の励起・共鳴条件は、内部磁気圏の冷たいプラズマの分布関数に依存します。衛星観測により、強いホイッスラーモードのコーラス波動が励起されるプラズマ圏の外で、放射線帯外帯のMeV帯のエネルギーの電子フラックスが増加することが示されました。このことは、ホイッスラーモード波動が電子加速にとって重要であることを示唆します [たとえば、Meredith et al., 2003; Miyoshi et al., 2003, 2007; Horne et al., 2005; Y. Kasahara et al., 2009]。このように、ホイッスラーモード波動は、エネルギーを低エネルギーの電子からより高エネルギーの電子へ受け渡す仲介者の役割を果たします。eV帯からMeV帯までの広いエネルギー帯のプラズマ・粒子が、波動粒子相互作用を通して動的に関与することが重要です。磁気音波も内部加速を引き起こす候補として考えられています [Horne et al., 2007, Meredith et al., 2008]。

放射線帯電子の消失

電子フラックスの増加過程は、相対論的電子の加速と消失の微妙なバランスにより生じます。そのため、消失機構は、加速機構と同様に重要です。消失機構についていくつかの可能性が提唱されています (Millan and Thorne [2007] とTurner et al. [2012] によるレビューを参照)。断熱的な消失はリングカレントの発展中に常に起こっていますが [Kim and Chan, 1997]、非断熱的な消失過程も宇宙嵐中に起こっています。磁気圏圏界面からの逃走過程やその後の外向きの動経方向の拡散は、放射線帯外帯の電子の急速な消失を引き起こします [たとえば、Brautigam and Albert, 2000; Miyoshi et al., 2003; Shprits et al., 2006; Matsumura et al., 2011; Turner et al., 2012]。電磁イオンサイクロトロン波動 (EMIC) やホイッスラーモード波動によるピッチ角散乱は、相対論的電子を大気に降り込ませるのに重要です [たとえば、Thorne and Kennel, 1971; Lyons et al., 1972; Abel and Thorne, 1998; Li et al., 2007; Miyoshi et al., 2008; Jordanova et al., 2008]。 ピッチ角散乱に伴う消失過程は局所的であると考えられますので、衛星・地上の多点観測は重要です。

エネルギー階層間結合と領域間結合

図3: 内部磁気圏のエネルギー階層間結合の模式図

図3は、内部磁気圏における輸送と加速機構をL値とエネルギーに対してまとめたものです。動経方向の拡散では (図の青色の矢印)、電子は、第1、第2不変量の保存によってエネルギーを増やしながら、地球方向に移動します。主にULF帯のPc5脈動が動経方向の拡散を駆動することができます。一方、その場での波動による加速では (図の赤い矢印)、準相対論的電子は、リングカレントの電子やイオンのプラズマ不安定性によって励起されるホイッスラーモード波動や磁気音波によって、MeV帯のエネルギーにまで加速されます。ホイッスラーモード波動や磁気音波などのプラズマ波動は、波動粒子相互作用を介してリングカレントの電子やイオンから準相対論的電子にエネルギーを受け渡し、相対論的電子フラックスが放射線帯内で増加します。この過程では、熱的プラズマも背景媒体として重要な役割を果たします。リングカレントの電子や熱的プラズマの輸送は主に対流電場に支配されるので、対流の過程は内部加速過程における相対論的電子のダイナミクスに影響するだろうと考えられます。

eV帯からMeV帯までと6桁以上も大きく異なるエネルギーを持つ内部磁気圏内のプラズマ・粒子のエネルギー階層間結合は、波動粒子相互作用によって放射線帯外帯のMeV帯電子の生成に関与しています。さらに、磁気圏と電離圏の領域間結合は、内部磁気圏の対流電場の動的な発展を駆動します [たとえば、Ebihara et al., 2004]。そのため、放射線帯の形成は、ジオスペースにおけるエネルギー階層間結合と領域間結合の現れであると言えます [Mann et al., 2006; Mann, 2008, Ebihara and Miyoshi, 2011]。これらの結合は、宇宙嵐中のジオスペースにおける相対論的電子の生成機構の理解を目的としたERG 計画で鍵となる概念です。

放射線帯と宇宙天気

放射線帯の相対論的電子の研究は、宇宙天気を理解する上でも重要です [Baker, 2002]。放射線帯の中を通過するGPSや気象衛星、通信衛星などの宇宙空間の基盤は、私たちの現代社会にとって欠かせません。高エネルギー粒子は、衛星の動作の異常をもたらし得ます。実際、衛星異常は、放射線帯外帯の相対論的電子フラックスが大きく増加することに密接に関係することが示唆されています [Pilipenko et al., 2006]。放射線帯電子の増加による衛星の深部誘電体帯電は、衛星異常の主要な原因の一つです。さらに、国際宇宙ステーション (ISS) も放射線帯内帯・外帯の下部を通過します。MeV帯のエネルギーの電子は宇宙服の中に侵入できるので、ISSで船外活動中の宇宙飛行士は、高エネルギープロトンだけでなく相対論的電子によっても放射線に被曝します [National Research Council, 2000]。ISSでの船外活動中の宇宙飛行士の放射線被曝量を管理するためには、相対論的電子の現況と予測が重要です。

主にどの機構が放射線帯外帯の発展に寄与するかを調べるためには、プラズマや電磁場、波動を赤道で計測することが重要です。CRESSやAkebonoの観測により、赤道面での観測が重要であると示唆されています [Seki et al., 2005]。さらに、位相空間密度の分布は、外部供給過程と内部加速過程を切り分ける鍵です [Green and Kivelson, 2004; Chen et al., 2007]。しかし、強い放射線環境により粒子計測に深刻な汚染を被るため、内部磁気圏での総合的な観測は未だに実現されていません。このように、加速機構は未だはっきりと理解されていません。

将来の展望

地球の放射線帯は、宇宙全体で見られる相対論的粒子の生成過程に関する理解を深めるための絶好な自然の実験室です。私たちの太陽系で水星を除いた、固有磁場を持つすべての惑星には、放射線帯があります [Mauk and Fox, 2010]。地球の放射線帯に関する最新の知識は、惑星の放射線帯の理解の一助になるでしょう。たとえば、超相対論的電子が生成される木星の放射線帯では [Bolton et al., 2002; Ezoe et al., 2010]、動経方向の拡散が木星磁気圏での電子加速過程に重要であると考えられています [たとえば、Goertz et al., 1979]。一方では、地球の放射線帯に関する最近の研究に基づいて、波動粒子相互作用による非断熱加速過程が提唱されました [Horne et al., 2008]。ERG 計画の成果に基づいて地球放射線帯における相対論的電子の加速過程を詳細に理解することにより、惑星磁気圏や宇宙での高エネルギー電子の生成について解明が進むでしょう。

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